姫路市伊伝居の図書館 BIBLIOTHECA〜猫婆軒〜

ようこそ「BIBLIOTHECA 猫婆軒」へ。

　「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。」
　（宮沢賢治『注文の多い料理店』より）

　2022年4月、桑原神社の東隣に「図書室」がオープンしました。
　祖父、父母がお世話になった伊伝居、普通の民家に書架を設置しただけの＜私設＞「図書館」ですが、地域に開かれた空間をめざします。

お知らせ

知らなかった名画誕生の背景 ― 初イベント「往年の名画を語る会」

　テーマは「ウィリアム・ワイラー監督の思いを探る」。トークの橋本良介さんが「ローマの休日」を皮切りにワイラー監督作品の数々を紹介します。ハリウッドで吹き荒れた「赤狩り」による弾圧にワイラー監督含め大勢の有名な映画人が抵抗したことに触れていきます。また、ご自分の体験にも接続する「違いを認める」ことの重要性にも迫ります。
　さすがの映画好きだけあって橋本さんは凄い。俳優はもちろん監督や脚本家だけでなく、タイトルデザイン作家の名前までもがポンポン飛び出します。つい僕らがとばしてしまうオープニングやエンディングクレジットの比較も含めて、映像観賞を挟みながらの解説やこぼれ話に「へぇ～」と驚いたり感心したり…あっという間の2時間でした。
　終了後の映画談義も楽しかったです。橋本さん、映像の編集とレジュメ・資料の準備をありがとうございました。残念だったのは、いろんなイベントが重なる時期で、来られなかった方が多かったことです。もっとたくさんの方に聞いてほしかったなぁ、と反省しきりです。

名画を語る会レジュメ

今年最後の「この一冊を語る会」

　会が始まるまでのおしゃべりは、朝ドラ「ばけばけ」から『黒い蜻蛉』の話題で盛り上がっていました。今回は原作と映画やドラマ、漫画との関係に話が及ぶこともありました。
　最近は芥川賞についていけなくて直木賞の方がいいとおっしゃる最初の方の紹介は、『風に舞いあがるビニールシート』。森絵都の短編集で、表題作が国連難民高等弁務官事務所で働く男女の物語です。タイトルはときに襲撃も受ける不安定で危険な難民キャンプを暗喩しています。現場で命を救い続けたいと願うエドと現場には行こうとしない里佳。やがてエドはアフガンで落命してしまう。二人のつながりとズレが譲れない大切なものを浮かび上がらせます。
　二番目も同じく森絵都で、新作長編『デモクラシーのいろは』。占領下の日本でGHQが行ったある「実験」― 民主主義は日本に定着するのか？！のお話です。民主主義を教える先生は民生局所属の軍曹日系二世リュウ・サクラギ。生徒は4人の若い日本人女性、それぞれのクセ・ワケアリに加えて、場所を提供する子爵夫人の企みが絡んで奇想天外な展開に。笑いながら楽しく読めて、つい考えさせられる一冊です。
　『紅塵』はSF『銀河英雄伝説』で有名な田中芳樹の歴史小説。舞台は12世紀半ばの中国、主人公は南宋の文官韓子温。母梁紅玉とともに宿敵金に潜入、金の侵攻必至と高宗に上奏するが容れられない…。「歴史スペクタクル」とあるけれど、今の日本や世界の情況と結びつけて読んだとのこと。無学で政治は分からないと言う父と元芸妓で女将軍の異名を持つ母がカッコイイ。権謀術数と闘いの中で「歴史から学ばないのが権力者だ」との独白や歴史に名を残さなかった人の大いなる存在に深く共感されたそうです。
　大阪市鶴見緑地に日本初の民間小児ホスピスが誕生したのは2016年。『こどもホスピスの奇跡』（石井光太）はそのノンフィクション。管でつながれて生かされている子、大人はうそつきだと恨んで亡くなった子、自分のせいで家族が壊れると自ら追いつめる子…。これまでの治療中心に対し、ここにいる間は短くても家族やみんなと楽しく深く生きることを目指しています。治る子、治らない子、もの凄い後遺症が残る子もいる。重くつらい現実がテーマですが、感動と一筋の希望を見出します。
　題名に惹かれて読まれたという『「タ」は夜明けの空を飛んだ』。作者は歴史文学作家の岩井三四二。これは日清日露の戦争間に無線通信機を独自開発した科学者の史実に基づく物語です。原理も分からない新技術の研究改良に取り組む懸命で地道な努力が結実するのが…哨戒艦信濃丸から打電された「タ」だった！「タ」とは「敵艦隊見ゆ」との暗号で、これがバルチック艦隊を撃滅した日本海海戦の勝機になったのです。まさにドラマと言えます。作家は物知りでなければできない。物知りになるには時間とお金をかけて努力しなければいけないと感じたとのことです。
　推薦いただいた『家守奇譚』は好きな小説のベスト3（？）に入るそうです。亡き友の古い家を預かることになった主人公征四郎。四季の移ろいの中に現れ消えていくこの世のものとこの世ならぬ“いきもの”たちとが共存する妖しくも不思議でかつ美しくはかない日常。カッパや人魚、焼きもちやきのサルスベリ、小鬼、掛け軸から現れる亡き友…梨木香歩の幻想世界が広がります。一緒に持参された『冬虫夏草』は征四郎が愛犬ゴローを探すお話で、この続編ともいえる作品です。近藤ようこが2冊合わせて『家守奇譚』（上下）として漫画化しています。
　ブレイディみかこの最新作『私労働小説』は作者の自伝的連作短編集。キャバクラ嬢、スーパー店員、レストラン皿洗い、格安量販店員、ハウスキーパー、督促ガール…人は何のために働いているのだろう？！育ててやった、雇ってやった、住ませてやっているなどなど、貸したんだから「借り」はきっちり返させる ― このような負債返済道徳はときに暴力につながる。サブタイトルに「負債の重力にあらがって」とあるように、「借り」は返さなければならないというモラルの呪縛からの解放が軸になっています。一作目の『シット・ジョブ』を合わせて読むのもお勧め。
　ご紹介いただいた本は、玄関の新着図書コーナー及び今月の本棚コーナーに置きます。どうぞ手にとってご覧ください。もちろん、貸し出しもできます。
　次回の「この一冊を語る会」は、来年2月に開催予定です。

“猫婆楽団”初めての招かれ演奏

　「町の音楽会」に来てくださった「姫路医療生協小規模多機能ホーム野里」の施設長さんから声をかけていただき、11月22日、ホーム主催の「野里マルシェ」で演奏してきました。参加した楽団員は3人で、演奏内容も同じものでしたが、大きな声で一緒に歌ってくださる方もいらっしゃいました。おかげさまでお天気にも恵まれ、小春日和の日差しを浴びながら和やかなひとときを過ごすことができました。お招きにあずかりありがとうございました。

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