北朝鮮への新制裁案、米が安保理に提出 中国支持 2016年02月26日
http://www.bbc.com/japanese/35666086
米政府は25日、北朝鮮の核実験やミサイル発射に対する新しい制裁決議案を国連安全保障理事会に提出した。制裁を強化する内容を、中国も支持している。採択されれば、北朝鮮へ出入りするすべての貨物に対する国連加盟国の検査を義務付けるのは初めてとなる。採決は週末に行われる見通し。
サマンサ・パワー米国連大使は、北朝鮮に対して20年来で最も厳しい安保理制裁になると述べた。
「史上初めて、北朝鮮に出入りするすべての貨物について、検査が義務化される。一連の制裁が採択されれば、北朝鮮政府に明確で揺るぎないメッセージとなるはずだ。世界は、あなたたちによる核拡散を容認しない、あなたたちの行動には代償が伴うと」とパワー大使は強調した。
新しい制裁では、北朝鮮が世界中の港に禁輸品を運ぶことができなくなり、小型武器も禁輸措置の対象となる。
さらに、北朝鮮からの石炭、鉄、金、チタニウム、希土類(レアアース)の輸入も禁止されるほか、ロケット燃料を含む航空燃料の提供も禁止となる。
北朝鮮による1月の核実験と2月の長距離ロケット発射について、あからさまな国連決議違反だと多くの国が批判した。
中国は批判する一方で、これまでは隣国で友好関係にある北朝鮮の安定を脅かすような制裁措置には慎重な姿勢を示してきた。
北朝鮮制裁については、数週間におよぶ米中協議を経て、ワシントンでジョン・ケリー米国務長官と王毅中国外相が最終的に合意に達したことから、25日の制裁決議案提出となった。
北朝鮮は、ミサイル計画は純粋に科学的な目的だと主張している。しかし、米国や韓国に加えて、北朝鮮の友好国である中国でさえも、ロケット発射は大陸間弾道ミサイルの開発が目的だと考えている。
1月の北朝鮮の核実験は、2006年以来4回目。北朝鮮は水爆実験だと主張している。
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第224号(2月28日)
http://melma.com/backnumber_190875/
*
南シナ海と北朝鮮
北朝鮮への安保理制裁決議について、漸く米中が合意した。北朝鮮が弾道弾実験をしてから、2週間以上、核実験をしてから1カ月半以上も経っての合意である。国際社会は冷めたピザを食べることになったと思っていたら、今度はロシアがごねている。配達されるピザは冷めたどころか、冷凍されることになりそうである。
中国はこれだけごねて、何を得たか?
言うまでもなく南シナ海の軍事化だ。中国軍がパラセル諸島(西沙)に地対空ミサイルを配備したと報ぜられたのは今月14日だ。
翌日、オバマ大統領がアセアン首脳をカルフォルニアに集めて南シナ海問題を討議したが、「そんな会議を前にして中国は、なぜ挑発するような真似をするのか?」と訝る向きもあった。
だが結果を見れば答えは明らかだ。中国は米アセアン首脳会議を睨んで軍事配備したのではない。23日に中国の王毅外相はケリー米国務長官とワシントンで会談したが、米国は対北制裁合意の見返りに南シナ海軍事化を容認せざるを得なかった。
中国が当初から狙っていたのは、これだったのだ。
そうと分かれば、ロシアだって制裁合意の見返りに米国から何らかの譲歩を引き出そうとするのは当然の成り行きであろう。
日本では、将来、日本初の女性首相を目指す与党議員が「南シナ海は日本に関係ない」という様な発言をしてしまう平和ボケが続いているから、これがどうして日本の脅威になるのか、解説しておかなければならないだろう。
中国はパラセル諸島に既に戦闘機を配備した。ここは南シナ海の西側であり、以前にも一時的に戦闘機が配備されたことがある。だが南シナ海の中央のスプラトリー(南沙)諸島の人工島に飛行場は完成しており、ここに戦闘機が配備されるのは時間の問題だ。
そうなれば、中国は南シナ海全域にいつでも防空識別区の設定を宣言できる態勢になる。航空自衛隊は日本周辺に防空識別圏を設定している。圏と区の一字違いだが、この違いは重大だ。
日本の識別圏は領空を意味しないが中国の識別区は領空を意味しているのだ。
2013年に中国は東シナ海に防空識別区を設定したが、その際、各国の民間航空会社にそこの飛行計画の提出を要求した。南シナ海に防空識別区を設定すれば当然、その空域を飛行する民間航空機の飛行計画の提出も要求するだろう。
飛行計画の提出が義務化されれば、中国は飛行計画の変更を要求できる。例えば日航や全日空に飛行経路の変更を要求できる訳だ。これは国際法上許されない行為だが、突然言い出されたら、民間航空会社は困惑してしまう。結局政府間交渉に委ねるしかなくなり、その交渉の席で中国は飛行計画を承認する見返りを要求できる訳だ。
つまり南シナ海の軍事化は、日米に対する強力な外交カードを中国に与えるのである。
米国は現在、中国に対して防空識別区の設定をしないように要求している。
だがスプラトリーへの戦闘機配備に対しても武力行使をしないと見られる。
戦闘機が配備されれば、米国で政権が代わる頃を狙って防空識別区の設定を宣言するかも知れない。米新政権も断固それを望まないというのであれば、設定を延期する見返りを中国は米国に要求できる。
おそらく、その時になってオバマ政権が中国の南シナ海の軍事化を容認したのは、間違いだったと国際社会は気付くのであろう。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
動画配信中:「地図で見る第二次世界大戦」
http://www.nicovideo.jp/watch/1441391428
文庫新刊:「図解大づかみ第二次世界大戦」
http://www.kadokawa.co.jp/product/321502000376/
著書:
「領土の常識」(角川学芸出版)
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321212000089
「国防の常識」(角川学芸出版)
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201203000167
「戦争の常識」(文春新書)
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784166604265
「エシュロンと情報戦争」(文春新書、絶版)
監修:
「イラスト図解 戦闘機」
http://www.tg-net.co.jp/item/4528019388.html
「超図解でよくわかる!現代のミサイル」
http://www.tg-net.co.jp/item/486298102X.html?isAZ=true
インターネット動画配信中:
「現代戦闘機ファイル」
http://www.nicovideo.jp/watch/1411697197
「よくわかる!ミサイル白書」
http://www.nicovideo.jp/watch/1383640409
上解説に依れば、米は中国に合意を求めたが、中国は見返りに南シナ海の軍拡を米に容認させた。