大阪・摂津市PFOA汚染問題を考える会

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摂津市のPFOA汚染

水の汚染⑴ 「現在も残る高濃度汚染」

 2020年国が水の暫定目標値1ℓ当たりPFOA+PFOS50ng50ng/)を設定して以来、行政の調査で摂津市の地下水等から高濃度のPFOAが検出されています。PFOSの数値は低く、ほとんどがPFOAによるものです。特に、ダイキン周辺には暫定目標値の440という全国一の汚染が広がっていることが判明しました。2012年にダイキン淀川製作所は長年続けてきたPFOA製造・使用を全廃しましたが、10年経っても深刻な汚染は消えません。

 

2019年度環境省調査(20206月発表)。南別府町井戸PFOA 1,812ng/ℓ検出。全国一と報道。

 https://www.env.go.jp/content/900515656.pdf

2020年度環境省調査は排出源周辺の調査。摂津市三島でPFOA160ng/ℓ(下図はPFOSとの合計170ng/ℓ)・東淀川区で5,500ng/ℓ検出。

 https://www.env.go.jp/content/900517680.pdf

202012月大阪府調査。一津屋井戸からPFOA22,000ng/検出。全国と比べて桁違いの値。

(大阪府は毎年調査をし、20238月一津屋井戸は26,000ng/ℓ)

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/4460/00133686/R508_result.pdf

 

水の汚染⑵ 「過去の大量排出」

 1960年代後半からダイキン工業はPFOAを使用し、80年代からは製造も開始、世界8大メーカーのひとつとして大量の生産・排出を続けてきました。

当初は下水につながず味生排水路等にそのまま流していましたが、199911月公共下水に接続、「安威川流域下水道 中央水みらいセンター」を通じて安威川に放出されるようになりました。

2004年の京都大学グループの調査で、安威川の67,000ng/ℓという世界的汚染が明らかになりました(報道は2007年)。大阪府と摂津市は排出源であるダイキン工業とともに「神崎川PFOA対策連絡会議」を2009年に立ち上げ、毎年濃度を測定するようになりましたが、市民には会議の存在を秘密にしていました。

「会議」議事概要録によると、ダイキンは、2000年頃をピークに、世界8大メーカーへの米国EPAPFOA削減要請に応え、製造・使用を減らし、2010年には95%削減の目標を達成、2012年には淀川製作所での製造・使用を全廃したとしています。敷地内で年間3万トン(後に6万トン)の地下水を汲み上げ、活性炭等で除去処理後、公共下水に流していることも語っています。

しかし、現在も継続される地下水の汲み上げ・処理は、汚染の抜本的な解決には至らず、処理後の水も下水への排出水も依然高濃度であることが議事概要録から推察されます。最近では国の暫定目標値の10倍(500 ng/ℓ)を排出水の目安にしていますが、実際の値は定かではありません。

ダイキンは、これまでの総排出量はじめ、敷地内地下水や処理水の濃度、公共下水への排出濃度さえ「企業秘密である」として非公開。大阪府も摂津市も提供された値を公表していません。ダイキンは、202311月から敷地境界線に遮水壁を張り巡らす工事をスタートさせ、敷地内での汲み上げ量も増加させる計画ですが、すでに敷地外に広がった汚染については対策の意思すら示していません。

 

●製造・使用を全廃して4年経っても、ダイキンと安威川流域下水処理場(「中央水みらいセンター」)の2カ所を中心に汚染が広がっていることが、京都大学の調査でわかる。

図は、2020812日京都大学小泉名誉教授・原田准教授「摂津市および各会派議員への要望書」より

 

水の汚染⑶ 「水道水の汚染」

現在、摂津市の水道水は暫定目標値(50ng/ℓ)以下ですが、2023年8月、太中浄水場の2号井戸のPFOA濃度が45(PFOA43)ng/ℓまで上昇し、取水を停止しました。

 2007年の大阪府議会の議事録では、「村野、庭窪、三島の水道水のピーフォア(PFOA)が府内平均よりも多くなっている」「庭窪浄水場の府営水105ng/ℓ」とあり、過去の水道水は汚染されていたと思われます。(摂津市の府営水は三島浄水場から供給され、2023年から庭窪浄水場に切り替えられました。)

 現在の水道水が暫定目標値以下でも、摂津市民は長年、汚染された水道水を飲んでいた可能性があります。また、地下水や土壌の汚染により、太中浄水場の井戸水濃度が今後も上昇する可能性がないとは言えません。

 

●摂津市太中浄水場の1〜6号ある井戸のうちの2号の濃度が上昇し、20238月から取水停止。それにより、混合原水の値は815ng/ℓから95 ng/ℓに下がった。

   

●大阪府議会議事録 2007928日府議会定例会本会議 宮原威議員質問・20071113日平成18年度会計決算特別委員会 堀田文一議員質問。

大気の汚染 「総排出量の23%は大気へ」

 PFOAの排出は水だけではなく、大気へも行われました。ダイキンと並ぶPFOA製造メーカーデュポンの自社調査では、排出は水65%・大気23%・土壌12%とのことでした。

 京大チームの2008年調査(ダイキンからの排出を測った上で、どのように拡散するか、450km四方の大気をシミュレーションで分析)では、大気への排出は季節風に乗って東は愛知県、西は広島県、南は和歌山県にまで及んだとのことです。

左から1月、年間、7月の大気中のPFOA濃度を表した図。1月は北風に、7月は南風に乗ってPFOAが拡散する

=京都大の研究チームの論文『Long-term simulation of human exposure to atmospheric perfluorooctanoic acid (PFOA) and perfluorooctanoate (PFO) in the Osaka urban area, Japanより(図中の赤字は報道機関Tansaが補足)

2008年京都大学チーム調査結果[報道機関Tansa「公害『PFOA』」より]

土壌・農作物の汚染 「基準がないからと動かない」

地下水汚染が全国一と報じられたときに、ダイキンのすぐ近くの畑で農作物を栽培、食べている住民が、京都大学小泉名誉教授・原田准教授に依頼し、地下水・土壌・農作物・本人の血液を調べたところ、全てが大変な高濃度であることが分かりました。小泉教授・原田准教授は20208月に、その結果を「摂津市及び各会派議員への要望書」として提出しましたが、市は動かず、議員も一部を除いてはすぐには動きませんでした。

 住民の運動が高まる中、20223月、議会はようやく土壌や農作物、人への健康影響を調べるよう「意見書」を全会一致で国へ提出しました。

国は沖縄と大阪で土壌調査の研究を行っていますが、沖縄の調査場所は嘉手納町であること、結果数値も公表しているのに対して、大阪は調査場所すら明らかにしていません。20237月、国は研究の結果に基づき、自治体に対して土壌中の暫定測定方法を示しました。しかし、大阪府も摂津市もいまだに土壌調査は行っていません。

農作物についても同じく、国が研究をおこなっていますが、調査場所も明らかにしていません。土壌・農作物ともに、現在も基準は定まっていません。

小泉教授・原田准教授の要望書より

20207月調査

PFOA

単位

血液(血漿)

110

ng/m

地下水

18,366

ng/

サトイモ

65

ng/kg

ナス

317

ng/kg

土壌表層

2,522

ng/kg

土壌下層(粘土)

2,643

ng/kg

小泉教授・原田准教授の評価

血液は非汚染地域(平均2.7)と比べ極めて高い。

極めて高濃度の地下水汚染(暫定目標値50)。

ナスとサトイモを一日一個ずつ食べても水の暫定目標値を超える。

土壌も表層から下部に至る高濃度汚染が生じている。

 

※環境省 土壌・水系における有機フッ素化合物に関する挙動予測手法の開発と除去技術に関する研究

https://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/db/pdf/interim_presentation/5-2101.pdf

※農林水産省 農産物中のPFASの分析法の確立、農地土壌、水等からのPFAS移行特性の解明

https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/regulatory_science/attach/pdf/r5_rsproject- 10.pdf

 

20223月摂津市議会意見書

人体への影響⑴ 「摂津市民の血液検査結果」

 日本にはPFASについての血液の基準はありませんが、環境省の2017年調査「日本人における化学物質の曝露量について」では平均値は血液12.2ng (2.2ng/)でした。

摂津市民に対しては、行政によるPFAS濃度の血液検査は行われていません。京都大学や住民の手によって調査が行われてきました。

  2020年以降、ダイキン周辺で農作物を栽培し食べている住民(10人前後)は毎年血液検査を行っています。濃度は全員高く、2021年の平均値は74.ng/最高値は190.ng/でした。また、畑の農作物を食べるのをやめると値が下がったという結果もあります。

 

地下水・水路の水で野菜作りをしている摂津市住民の検査結果

平均   PFOA 74.8   PFOS+PFOA 89.1 20211023日調査

住民

A

B

C

D

E

F

G

H

I

PFOS

7.5

33.3

31.8

9.3

22.1

6.4

2.1

12.6

4.0

PFOA

17.3

140.9

79.7

190.7

81.8

18.2

32.1

103.4

9.0

PFOS+

PFOA

24.8

174.2

111.5

200.0

104.0

24.6

34.2

116.0

13.0

 

  20226月、私たち「摂津市PFOA汚染問題を考える会」では、「汚染土壌で作った農作物を食べていないが、ダイキン周辺に18年以上住んでいる住民」11人の血液検査を行いました。平均値は8.2ng/最高値は17.15 ng/。ダイキンが製造・使用をやめて10年経っても住民の体内にはPFOAが高濃度で残っています。

 

18年以上ダイキン周辺に住み、野菜作りをしていない住民の検査結果

平均   PFOA 8.20   PFOS+PFOA 13.76  2022年6月5日調査

住民

30

60

70

70

40

80

70

50

70

70

70

PFOS

1.38

3.72

12.37

4.26

2.43

10.65

2.73

4.26

11.11

4.44

3.80

PFOA

2.02

3.31

15.89

6.63

3.98

11.79

6.57

5.03

13.02

17.15

4.82

PFOS+

PFOA

3.40

7.03

28.27

10.89

6.41

22.44

9.30

9.28

24.13

21.59

8.62

 

  2023年市民団体「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が立ち上がり、京都大学と大阪民主医療機関連合会の協力のもと、年末までに大阪で1,000人を超える血液検査を実施しました。摂津市では私たちの会も協力し、4回の会場で合計201人が検査を受けました。第1・2回の検査を受けた摂津市民80人の結果が、速報として報告されました。PFOA平均値は10.8ng/で、「摂津市民は摂津市以外の大阪府住民・東京多摩地区の住民と比べ、血中のPFOA濃度が、標準偏差を考慮しても有意に高い」と分析をした原田准教授は評価しています。

 

京都大学原田准教授「大阪府でのPFAS血液検査の途中報告」

20231111日「大阪PFAS汚染と健康を考える会」総会資料より

人体への影響⑵ 「健康への影響はどうか」

20231130日、世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)は、PFOAを「発がん性の可能性のある物質」(グループ2B)から、2段階上の「発がん性のある物質」(グループ1)に引き上げました。アスベストやカドミウムと同ランクです。

 

日本政府は血中濃度によって健康影響はわからないとし、基準を作っていません。

しかし、ドイツ環境庁のHBM委員会は、PFOS20 ng/PFOA10ng/を超えると健康リスクがあるとしています。

また、全米アカデミーは7つのPFAS合計で20 ng/を超えると「腎臓がんなどのリスクを考慮した処置が必要」としています。

 

2023年の「大阪PFAS汚染と健康を考える会」の結果速報(前項「摂津市民の血液検査結果」)によると、摂津市民80人のうち、全米アカデミーの基準を超えた人は、4つのPFASの合計だけでも31人、約40%という結果が出ました。

 

日本政府は現在、「国内でのPFASによる健康被害は確認されていない」としていますが、それは、健康影響調査・疫学調査を行なわず、基準も作らないので、健康被害が発生していても、「調べていないからわからない」ということではないでしょうか。

PFOAは、発がん性だけでなく、妊婦や胎児へのリスク、発達毒性、免疫機能の低下、ホルモンや遺伝子への影響を指摘されています。私たちは、日本政府に、早急に血液検査・健康影響調査・疫学調査を行い、健康リスクについての基準をつくることを求めます。

京都大学原田准教授「大阪府でのPFAS血液検査の途中報告」

20231111日「大阪PFAS汚染と健康を考える会」総会資料より

PFOA汚染

ダイキン工業によるPFOA汚染

PFOA汚染についてのポスター