句集「雑詠」3‐5
東海自然歩道を行く
明治の森から自然歩道へ
1.箕面から摂津峡へ・昭和・五四・六・三・晴れ
宝塔の 向こうは 椎の花盛り
辿りつきし 竜王山寺の 清水かな
清水汲んで 我取り戻す ホトトギス
摂津神峰寺・ぽんぽん山
2.摂津峡から大原野へ・昭和・五四・七・一五 晴れ
枯れ木たおり 杖とし辿る わくら葉の道
尾根ゆけば 夏鶯の 谷間より
わくら葉を 踏み坂道の 息せわし
杖止めて 山時鳥に 聞き入りぬ
突然に 視界の開け 汗ひきぬ
日本人の心の古里・嵯峨野
3.大原野から清滝へ・昭和五四・九・二二 晴れ
石仏に こぼれ掛かれる 萩の花
清滝の 流れに足を 冷やしけり
嵯峨の秋 去来の墓の 香と飴
山蟹と 大声揚げて 皆止まる
清滝の 瀬にくだかれし 紅葉かげ
あだし野の 念仏寺や 彼岸花
竹の道 又竹の道 竹の春
文学の道
4.清滝から加茂川へ 昭和五四・一一・一八 雨
ほうほうと 托鉢の僧 冬の街
托鉢の 僧の草鞋や 冬の雨
空青し ひよどりの来て 柿つつく
胸をつく 峠は青き 冬の空
落ち葉つむ 巌の陰の 石仏
かわせみの 一声なきて 瀬に消えぬ
沢の池 紅葉映して 暮れにけり
北山の 杉の木立ちに 紅葉映ゆ
京都・北山を行く
5.山幸橋から貴船へ 昭和五五・三・二 晴れ
春寒や 和泉が恋の 貴船川
加茂川や 二・三羽とべり 都鳥
哺乳瓶 夜泣地蔵に 春寒し
夜叉王の 背較べ石や 春浅し
平家物語
6.貴船から大原寂光院へ 昭和五五・四・二九 晴れ
白壁に 影泳ぎ居る 鯉幟
古の 御幸の道の おそ桜
いよいよ比叡山へ
7.大原三千院から根本中堂へ 昭和五五・七・六・晴れ
薫風に 仏と共に 吹かれけり
石楠の 花を映して 岩清水
大師道 児連れ野仏 花しきび
霧湧いて 幽かに浮かぶ 杉木立
行者道 汗垂れ息も はづみ行く
鶯や 霧海の底の 深きより
雲海が 琵琶湖の辺り 覆いたり
砂白く 苔青々と 浄土院
尾根越えて 比叡の霧に 着きにけり
通草のまろべる道
8.根本中堂から三井寺へ 昭和五五・九・二八 晴れ
比叡山 谷底行くや 通草熟る
通草熟れ 落ち敷く谷を 下り行く
京保の 無縁仏や 彼岸花
野仏の 傾きし儘 法師蝉
深山に 寺跡開け 秋の蝶
大津京 礎石に秋の 雨残る
三井寺や 観月堂の 昼の月
古墳群 百と言う丘 竹の春
旅を愛した芭蕉の幻住庵のある
9.三井寺から石山寺へ 昭和五五・一〇・二六・晴れ
店壁に 大津絵描き 大根売る
逢坂の 関跡覆う 葛かずら
時雨すや 石山寺の 鐘の音
大野分 琵琶湖に近江の 逆さ富士
幻住庵跡を訪ねて
経塚に 椎の木の実の 今も落つ
お寺参りの道を辿り
10.石山寺から宇治川へ 昭和五五・一一・二 晴れ
雲高く 紅葉盛りの 岩間山
宇治川や 紅葉の盛り 映し居り
源氏物語・東屋の遺跡き
11.宇治川から郷の口へ 昭和五五・一一・二四 晴れ
阿字池や 紅葉に映ゆる 平等院
鐘の音や 残る紅葉へ 咲く椿
亀石と 指されて見るや いもせ鳥
釣り糸や 紅葉の眠く 映る池
仏塔を 抱いて山茶花 真っ盛り
宇治茶の里
12.卿の口から和束原山へ 昭和五六・一・一一 晴れ 残雪あり
風花や 地蔵の頬に 触れて消ゆ
天武帝 故址とある田の 初鴉
厄除けの金胎寺・護摩堂
鐘撞けば 音いんいんと 冬木立ち
笠置山・剣豪の里
13.柳生の里から春日山へ 昭和五六・一・二五 晴れ
風花や 十兵衛杉の 梢より
明歴の 地蔵菩薩や 凍の路
木津川に沿って
14.月か瀬から笠置山入り口まで 昭和五六・二・六・晴れ 残雪あり
冬麗ダム 満々と 輝ける
笹鳴きや 地蔵のおわす 飛鳥路に
開拓村
15.原山から押原へ 昭和五六・三・一 晴れ後雪
羊腸の 坂は眼下に 春の雪
九十九折り やっと終わりて 冬田見ゆ
開拓百年 冬田に残る 巖かな
山の辺の道を行く
16.春日山入り口から竹の内集落へ 昭和五六・三・二二 晴れ
野仏に 供花更えられ 春彼岸
石仏 囲み散り敷く 椿かな
しっとりと 苔の青さへ 落椿
御手洗に 馬酔木の花の 影くだけ
田平子に 野仏様は 囲まれて
万葉の 池に舞い来し 春の蝶
大和の国のまほろば
17.竹の内集落から長谷寺へ 昭和五六・五・一〇 晴れ
万葉の 濠に残れる 杜若
椎の花 長谷寺埋めて 真っ盛り
初瀬追分のルーツ
18.長谷寺から室生大橋へ 昭和五六・五・二四 雨天
木下闇 浮かびて白き シヤ莪の花
山影を 揺らしつ山田 植え進む
植え終えて 田に語り会う 影落とす
鶯を 背に早乙女の 帰り行く
雨足の 姫睡蓮を 隠しけり
世阿弥の銅像に敬意(名張駅前)
19.奥香落高原から室生大橋へ 昭和五六・七・一二 晴れ
万緑の 谷底深し 合歓の花
林道に 瀬音高まる 七変化
磨崖仏 慈顔に合歓の 花のかげ
圧巻・くろそ高原
20.奥香落高原から太郎生へ 昭和五六・八・三〇 晴れ
伝説の 亀女の池や 女郎花
女郎花と 雲を映せる 池の面
高原の 果てなる峠 雲の峰
雲ながる 清水に喉を うるほせり
大草原 憩うルックに 萩こぼれ
高原気分満喫
21.桜峠から青山高原へ 昭和五六・九・二三 晴れ
秋分の 大日輪や 霧の中
林道の 細き空より 秋の蝶
渓しぶき 浴びて黄に咲く 石蕗の群れ
はんみょうや 止まれば我も 杖を止む
道標を 確かめ行くや 彼岸花
霧の色 染めて稔れる 山田かな
杜鵑草・ りんどうの咲く
22.青山高原から新大仏寺へ 昭和五六・一〇・二十四‐五 晴れ
リンドウや 四つ這い登る あちこちに
渓流の 山女も染めて ブナ紅葉
幾度か 息整えつ 杜鵑草
頂上を きわめて仰ぐ 秋の天
林道口 山神祀る 里の秋
大野分 日溜まり欲しき 三角点
あの岳も 登りし岳や 遠紅葉
泊つ寺に 靴の紐とく 夕時雨
背を流し あう不動湯や 秋深し
法螺貝の 音に覚めにけり 霧の寺
秋の声 護摩の炎の 消えしより
霧襖 射抜く朝日に 祈る僧
鹿啼くや 深山の谷の 底を行く
菜の花咲く里
23.新大仏寺から余野公園 昭和五七・四・一一 晴れ
不動滝 蝋燭残り 行の跡
菜の花や 山嶢らせる 伊賀の里
滝しぶき 仰げは崖に 椿かな
滝壺の 隅に相寄る 落椿
不動滝 すぐれば谷は 瀬をはやむ
野仏に 花菜を供え 伊賀の春
茶畑続く果てに・伊勢の海
24.二四 湯の山から希望荘へ 昭和五七・五・二二一 晴れ
新茶摘む 畑はろばろと 伊勢の海
鶯や 茶畑めぐる 山々に
山賊の 棲みたる峠 樫落ち葉
焼き物の古里
25.紫香楽宮跡から伊勢廻寺へ 昭和五七・一〇・一七 晴れ
リンドウや 出水に荒れし 林道に
道しるべ 雑木紅葉に かくれ居り
刈田焼く 甲賀の里に 立つけむり
茅の屋根 覆うばかりに 柿たたわ
瀬田川と白い山
26.瀬田の唐橋から迎え不動へ 昭和五八・一・一六 晴れ
唐橋や 歴史の重み 比良の雪
早春や 弁当開く 三角点
千丈の 崖を仰ぐや 冬麗
木華咲く
27.金剛山に登る(東海自然歩道の一行と共に)昭和五九・二・一九 晴れ
金剛の 崖に木華の 大欅
雪晴れや 神の木馬も 嘶かん
散る木華 かぎろい舞いて 杖を止む
杉・楓 欅ツツジの 木華咲く
雪中に 真っ赤な衣の 石仏
かぎろえる 雪頬ばりつ 登り行く