句集「雑詠」3‐4
妻品子の俳句
明日は征く 夫と来て泣く 萩のかげ
リラの芽の ふえているや 戻り寒
藪椿 開いて散って 日脚のぶ
大正琴 徒然に弾く 春炬燵
いち早く 老人会の 花の宴
秋深き 高野巡りの 老い二人
数知れぬ 墓石に落ち葉 降り注ぐ
秋時雨 武将の墓の 苔むして
豌豆の 蔓伸びきって 冬温し
笹鳴きの 来ている日曜 良き目覚め
柿紅葉 大き音たて 落ちにけり
白や黄の 菊に無情の 雨続く
紀州路の 車窓いっぱい 蜜柑黄に
秋冷や いたわりあいて 高野山
杉木立 漏れる日差しや 秋深し
はたはたの とまりたる葉の 少し揺れ
ゼット機の すぎたる空に 鰯雲
遠き娘の 話などして 梨を剥く
通院の バス待つ程に 時雨くる
コスモスの 倒れし儘に 咲き乱れ
秋爽の 空に一筋 飛行雲
盆踊り 終わりて夜露の 道戻る
干瓢の 花の真白き 月明かり
父母眠る 峽静なり 彼岸花
コウモリや 夕焼け空を 絵の如し
瓢箪の 三つのこれる 秋の風
立秋の 空に見つけし 飛行雲
一日の 命やひたに 木槿咲く
唐黍の 稔りて孫の 来る日待つ
南瓜の 雌花ばかりの 朝なりき
空染めて 百日紅の 咲きつづく
卯の花に 風静かなる 昨日今日
ビルの影 植田静かに 暮れそむる
友の葬 見送る暑き 道を来て
花吹雪 両手を広げ 児等のごと
音しずか 竹林濡らす 春の雨
木苺の 実の熟れ初めて 孫遠し
胡瓜の花 咲き始めたり 今朝の庭
歩きはじむ 児に従いて 蓮華道
束の間に 牡丹散らして 雷雨去る
懸かり凧 送電線に 揺れ止まず
朝の日に 水仙競い 咲きにけり