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句集「雑詠」3−3

現在 平成9年(1997)まで
この頃になると、昔をしのぶ句が多くなりもっと積極的な句をと思うが、中々難しい。寄る年波、戦友学友が他界してゆくのは止められない。今日も山頭火の日誌を呼んでいると『世の中に真実のものは一つ、何か・・何事も偽り多き世の中に、死は誠なり』とあった。我々の歳になると此の誠に向かって動くものらしい。
毎年此の時期になるとサクランボが届く 一句
 サクランボ 送って呉れる 顔浮かぶ

 行水に 孫天国を 連発す

元岩手県知事より叙勲記念の風鎮届く  一句 平成四年十月
 風鎮を 取り替えてする 端居かな

 溝萩を 添えて盆花の 整いぬ
 故郷や つぎからつぎえと 赤とんぼ
 おじいちゃん ハイ、プレゼントと 敬老日
 機械音 もう響かすや 寒の朝
 落ち葉焚く 煙真っ直ぐ 寺の庭
 初夢や 妖怪 如来 十字星

孫が初曾孫連れて年賀に来る 三句 平成四年一月
 八十の 春や曾孫を 抱かさるる
 新年の 話題を浚う 曾孫来て
 めでたしや 曾孫は妻の 膝の上

戦友 遠藤君の奥さんから短歌集が届く 平成四年十二月
 戦友の 妻より歌集 開戦日

夏休み孫六人と共に『トロッコ列車』を楽しむ 七句
 がったんこ 揚がる歓声 春の風
 歓声の ボリュウム揚げる 花吹雪
 鶯に 昼餉の箸を 止めにけり
 舟下り 花のした行く 時仰ぐ
 竹林の 影を浴び行く 嵯峨の春
 落ち椿 夕べを知らす 寺の鐘
 あちこちに  残る菜の花 夕日影

 キャンプよりの 孫の土産は 惚け封じ
 真昼より 鐘打ち鳴らす 地蔵盆
 花卯木 差し芽をくれし 人の逝く
 池に映る 紅葉乱して 鷺のたつ
 浄土へは 遣る術のなき 年賀状
 喘息の 兄に届きし 花梨かな
 枯れ菊を 焚くや笹鳴き 来て居りぬ
 気持ち良く 盆景仕上げ 年用意

平成六年元旦
 曾孫まで 計七百歳や 屠蘇に酔う
 初泣きの 曾孫を抱けば 初笑い

故郷の六十塚を訪ねて 二句
 藪こうじ 鬼住む塚と 恐れたり
 鬼塚の 日向に赤き  藪柑子

 先生の 追想録や 楠若葉
 朝顔の 明日咲く蕾 数え居る
 水鳥の 二声三声 夜の秋
 夜を込めて 足の痛みや ちちろ鳴く
 故郷や 甘草径も 舗装せる
 足痛を 叩き直すや 鉦叩
 秋の夜を 句を案じつつ 爪を切る

 鈍行の 車窓に山百合 見てゆける
 亡き父の 声か風鳴る 田草取り
 藁塚に かかる三更の 北斗星
 砧うつ 北斗の冴えて 大藁家
 朝は先ず 仕事始めの 菊手入れ
 一ぷくの 茶に憩いけり 菊の前

初詣 毎年,裏の法円寺に孫と出掛ける  四句
 薬師の森へ 孫と連れ立ち 初詣
 父の忌の 記念の松や 初明かり
 菊枕 作りに過ごす 二日かな
 初写真 孫に撮られる ハイチ−ズ

 支え合う 夫婦老いけり 去年今年

阪神大震災起こる 平成七年一月十七日  五句
 寒暁や 地なり高まり 襲う地震(ない)
 豪雪の 奥羽より先ず 見舞い来る
 地震見舞い 続けて来るや ふぐり咲く
 寒地震 博多人形 バラバラに

 一片の 落花を仰ぐ 蒔きおえて
 暁の 障子に月の 花の影
 納豆の 好きな曾孫や 蝶舞える
 ふるリラを 眺める曾孫を 膝にのせ
 暖かや 曾孫を膝に 撮るポ−ズ
 仰向くも 伏せるもありて 落ち椿
 鴨飛ぶや 小波を立てる 鰯雲
 五輪の塔へ 集まり寄れる 彼岸花

孫 結婚グアムへ飛ぶ
 天高し グアムへ新婚の 孫娘

弟茂君の妻逝く 五句
 妹の 通夜二上山を 襲う霧
 白菊の香や 永遠に 眠る妹
 浄土への 旅に賜る 菊日和
 冥福を 祈る写経や 秋の夜
 しっとりと 時雨に濡れし 朝の森

 元朝や 木蓮の蕾 天を向く
 烏兎早々 七度目迎える 年男
 震災禍 瓦礫に生きる 寒椿
 北摂の 峰々に雪あり 年の暮れ
 学友の 賀状も遂に 一通か
 正ちゃんと 亡き戦友をよび 墓参り
 冬星の 凍て落したる 朝の冷え
 春近し 薬師の森へ 霧動く
 紅梅に 蓑虫垂れて 日当たれり
 故郷の 桜の盛りを 尋ねけり
 紅梅を 愛でる声して 友来る

岡山の義姉逝く  七句 平成八年二月
 危篤知らす 電話切れたり 春寒し
 花待たず 姉の笑顔や 永久に消ゆ
 駆けつけし 姉の葬儀や 春寒し
 涙ながらに 唱える心経 春の通夜
 出棺に 傘刺しかける 春時雨
 春雨や 石持て棺の 釘を打つ
 骨あげて 仰ぐや春の 牡丹雪

 蕗のとう 父の香りの 澄まし汁
 雨あがり 苔に落花の 波描く

妻 品子大腸癌の為入院す  五句 平成八年三月
 入院の 妻を見舞いて 春寒し
 花散るや 浮世哀楽 限りなし
 病の根 恨んでおりし 春灯下
 手術終えし 安堵の医師と 春灯下
 入院の妻や 春の夜 一人酒

患者輸送部本部の戦友と五十年ぶりに再会を果たす。
時は平成八年五月二十一日於広峰山ハイランド・ビラ。

 五十年前の 兵の面影 青葉影
 兵たりし 頃の髭なし 風薫る
 戦友と 語り明かして 朝燕
 アカシヤの 並木手を振り 別れけり

 鶯に 迎えられ妻 退院す
 若かりし妻や 卯木の花の道
 片肺の身に ズッシリと 夏来る
 花屋廃業 野花を摘んで 墓参り
 亀鳴くや 又戦友の 訃の報せ
 ヤモリ鳴く 軍隊手帳も 古りしかな
 雲流る 蓮の巻葉の 池の面
 咲き誇る 父の植えたる 菖蒲池
 開発の波 山桜伐り 捨てし

七夕に思う  六句  平成八年八月
 七夕や 老いては思う こと多し
 七夕の 硯へ露を 求めけり
 芋の葉の 露や硯に とりそこね
 七夕や 将棋習いし 父思う
 七夕や 母の大判焼き 思う
 七夕竹 先ず天の川と 書いて吊る

 初盆の近し 有明の月 山に
 提灯を 吊る被災地の 地蔵盆
 一刷毛の 雲流れ居る 夜の秋
 捕虜となり 柵に入りし日も 夕焼けし
 ロンドンより 孫の電話や 夜の秋

 枝おろし 此の楠の木も  五十年
 吾亦紅 芒を添えて 月を待つ
 月の出や 庭より届く 妻の声
 立秋や 暦に大根 蒔けとあり
 バラ持ちて 孫来てくれし 敬老日
 赤とんぼ 老いては疲れ やすきかな

中村直君逝く 三句 平成八年十月知る
 友逝きて 胸に穴あく 秋深し
 ゆきし友 送りし素麺 食べたりや
 桐一葉 のこる一枚 散りにけり

 松手入れ 職人も亦 代かわり
 灸の壺 一つ増やせり 年の暮れ
 除夜の鐘 この夜や  二十二夜の月
 月淡し 孫らと辿る 初詣
 賀状読み 声確かめる 初電話
 亡父の声 聞こえる如し 寒昴

軍旗祭 二句  平成八年三月
 亡き父に 負われて花の 軍旗祭
 花かたし 血染めき軍旗や  百年祭

 湯気揚げる ご飯に 菜の花漬の色
 花菜漬 青磁の皿に 似合い盛る
 睡蓮の 赤き芽おぼろ 薄氷
 マンサクや 暫くぶりと 兄弟が
 合格と 孫や土産を 置いてさる

帆船セ−ル, 大阪97  1 句 平成九年四月
長男から誘いが有ったが足が痛くて新聞を読んで作る

 海凪いで 登しょう礼や 春の海

 老妻の 心尽くしの 菖蒲の湯
 結ばれて たっぷり菖蒲 浮かぶ風呂
 三代の 祝福入園 初曾孫

妻 脱腸の為入院 三句 平成九年三月
 句帳手に 手術待つ 卯の花腐しかな
 手術終え 麻酔覚めたり 西日さす
 生死交々 院内電話 梅雨寒し

 母の日の 妻忙しや 電話口
 花卯木 挿し木 終わるや 雨もよう
 開拓の波 おしよせる 竹の秋
 ポンポン山と 親しみし山の 時鳥
 ラッキョウ漬 友より届き 夜の秋
 ハ−ブ湯の 香に身を沈む 盂蘭盆会
 蟻塚へ セミの躯を 曳き集む
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