オーストラリアから来日した古い友人と、ひさしぶりに会うことになった。
 
 もう何十年も前の職場の同僚なのだが、すでに高齢で引退して現在は余生をゆったりと
 過ごしているという。羨ましい限りだ。
 
 とはいえ、話を聞く限りでは最近のオーストラリアは自分が住んでいた頃と比べても
 信じられないほどに治安が悪化しているらしい。
 
 たとえばオーストラリアは車社会だが、公共のパーキングに少し停車しているだけで
 当たり前のように車上荒らしにやられるようになったとか、仕事にあぶれた若者たちの
 間では違法薬物が蔓延しているだとか。
 
 そういった若者たちの間での違法な取引のやり取りにもっとも使用されているのは
 誰もが想像するとおり、SNSだ。
 
 おそらくはこれも理由のひとつなのかもしれないが、オーストラリアでは若年層の
 SNS利用に対する制限がどんどん進んでいる。
 先日、ついに16歳未満のSNSの利用は完全禁止という法案まで可決された。
 
 この件は日本でも大々的にニュースで取り上げられたので知っている人も多いと思う。
 
 
 オーストラリア政府は、SNSの利用禁止にまで踏み込んだ同法を「世界に先駆けた
 法律だと自負している」とまで公表した。
 
 この強気の背景にあるのは世論で、オーストラリア国内ではSNS禁止を支持する声が
 非常に強い。SNSが若者に対して悪影響を与えていると強く信じられているからだ。
 
 オーストラリア国内の公共放送での世論調査によれば「政府が青少年のSNS利用を
 禁止すべき」と答えた人は61%に上り、規制当局がコンテンツの削除を命じる権限を
 持つことに賛成する人は79%、さらにSNS運営企業の「言論の自由」への支持は21%に
 とどまっているという。
 
 
 一応、今でも国別の平和度ランキングでいえば日本と同じくオーストラリアも上位に
 位置する国ではある。
 
 なので、世界的にみれば十分に安全なほうではあるのだろうが、ランキングというのは
 あくまでも相対的なものに過ぎない。
 単純に自国の過去と現在を比較すれば、やはり治安は明らかに悪化しているというのが
 国民の本音ではあるのだろう。
 
 
 もう完全に日本と同じだ。
 
 治安は確かに悪化しているのだが、他の国々も軒並み悪化しているから比較すると
 まだしも平和なほう、という意味しかないランキング結果だと思う。
 
 どの国においても、財布も心も国民全体が等しく貧しくなりつつある。
 
 もうすでに老人といって差し支えない年齢にさしかかっている今の自分としては、
 そのうち支給される予定の年金の見積もり額もますます落ち込む一方でもあるし、
 止まらない経済の悪化が人々の心を蝕んでいるように思えてならない。
 
 それは自戒でもある。他人事ではない。
 
 こんな時代にどう向き合っていくか、今年はそれを考える一年にしたいと思っている。
 
 
 2025年1月1日