100人オフ |
新宿の歌舞伎町といえば、昔は猥雑で治安の悪い繁華街の代名詞だった。 それが今では海外からの観光客が家族連れで歩き回れるような安全と安心と清潔をうたう街並みに変貌している。十年前の薄汚れた風景しか知らない人からすれば、隔世の感すらあるだろう。 だが今は、夜の降りしきる雨の中、普段のにぎわいの半分ほども人は歩いていないように見受けられる。ネオンが届きにくい道の暗さで見えにくくなっている足元の水たまりをよけながら、ようやく目的地にたどり着いた。 歌舞伎町によくあるバーや居酒屋の入り乱れる雑居ビルのひとつ。その地下にあるダーツバーに。 まだ始まるまで少し時間がある。ほとんど人の集まっていない中、先に受付をすませておこうと入り口で名を告げると、互いに顔を知らない人たち向けにということで名札を手渡された。 参加者に顔見知りが一人もいないわけではないが、とにかく今回は集まる数が半端じゃない。総勢100名の100人オフだ。 それに顔見知りといっても、ほとんどの人は10年以上も顔を見ていないし、へたをすると互いに顔を忘れて気づかないなんてこともあるかもしれない。名札はあるに越したことはなかった。 受け取る瞬間、自分の名札の真下に重なるように見覚えのある名前の名札が見えた。そこには「みいのら」と書かれてあった。 ごく一部の人たちのあいだで知られていた、うちのファンサイトを名乗っていたストーカーサイトの中の人だった。名札まで隠れるように真下にひそんでいるあたり、筋金入りのストーカーだった。 それにしても参加者一覧を見ていると、かつてはその名を轟かせた猛者が初めて顔を見せるというケースが多そうなのも、今回のオフ会の面白いところだった。 なにしろ知名度の高さから名前だけはよく知られていても、顔を知らないという人が大半である。受付では名札を受け取るのに名乗りをあげることで「そうか、この人が」という場面になることも多い。 受付「お名前をどうぞ」 濁「あ、濁です」 受付「お前かああああああああ!!!!!」 濁「ひいぃぃいいぃっっっ!?!?」 ※濁さん:テキストサイトの揉め事をすっぱ抜く「ダークマター」の管理人。スキャンダルやゴシップ大好き。今でいう文春砲みたいなのを毎日のようにぶっばなしては、その筋の人たちに悪名を轟かせていた。 これも今だから話せることだが、当時は「ダークマター」を話題に出しただけでサイトのカラーがダークサイドに寄ってしまいそうな、濁さんの名前を出すこと自体が禁忌みたいな雰囲気を感じていたので、あえて何も言わなかっただけで、実はこっそり連絡をとって直接お会いしたりしてはいた。 やがて参加者が次々と集まってくると、自分も顔を忘れていたような人たちからも声をかけられる。漫画家の王嶋環さんとか本当に久しぶりだった。自分が知っているのは漫画家になる前の彼女だが(自分の友人知人で漫画家の名前を挙げると、たいてい漫画家になる前に知り合ってるパターンが大半) 嬉しいことは嬉しかったが、だいたい全員が口をそろえて「ちっとも変わりませんね」と言うのがまるでお約束のようだった。 これは昔から公私ともに本当にそうなのだが、十年ぶりに会う人も二十年ぶりに会う人も例外なく全員が「変わりませんね」と言う。ただの社交辞令とかではなく学生の頃から知っている人に言わせると本当に何ひとつ顔が変わっていないらしい。 ただし、それはいつまでも若いとかいう良い意味ではなく、昔から凄まじく老けていたのが今になってようやく実年齢が外見に追いついただけのようだ。 しかし今後とも顔が変わらないとしたら、これからはどんどん若く見えることになるはずだが。 それにしても周囲の人たちを見ていると、昔と変わらないのは自分だけではない。 100人オフのために京都からわざわざ来た「革命軍」の前田あすなさんは、昔、大阪にいた頃に何度もお会いした一人だが、その当時のままのノリで革命軍のコス(手ぬぐいで顔を覆ってヘルメットにサングラス)をして、周囲をドン引きさせていた。 これがギャグとして通じたのは関西だったからというのを、しみじみと感じた。捨て身のギャグがすべって哀愁ただよう背中も、ある意味で前田さんのキャラにぴったりではあったが。 しばらくして主賓ともいうべき「侍魂」の健さんが姿をあらわすと、会場の盛り上がりもピークに達した感があった。大勢の人が我先にと集まり、トレードマークのアフロとサングラスをつけた健さんにカメラのフラッシュが浴びせかけられる。 とっさに「クローバー倶楽部」のファンさんが前に進み出て「ネットランナー」のおまけだった中華キャノンをすかさず差し出すと、股間に中華キャノンを構えて健さんがあらためて決めポーズをとる。さらなるフラッシュの嵐。 その横に並んで「ちゆAV」を構える自分にもフラッシュの波が及ぶ。 何この地獄絵図。 かつてのサイトのノリを彷彿とさせる、めちゃくちゃなノリで時間はあっというまに過ぎ去り、オフ会としては終わったのだが本番はむしろこれからだった。 二次会編につづく |