夏の嵐

2018年はかなり長期にわたって沖縄に滞在することになったのだが、はっきりいって、この年の沖縄はひどかった。

ニュースを見ていた人なら誰もが覚えていることだろう。台風である。

とにかく次から次へと台風が発生し、それもよりによって週末に直撃するパターンが毎週のように発生。休日はいつも窓ガラスが吹き飛ばないように養生テープでバッテンをつくって部屋に引きこもるという、まるで第二次大戦中の空襲対策みたいな過ごし方だった。

ガーデニングをやっているという友人の友人は、まさか庭をまるごと家の中にすべて退避させるわけにもいかない以上、台風が過ぎた翌朝には茫然とするしかない日々を繰り返していたようだ。

ひどいものだった。海は相次ぐ台風被害で、普段なら大勢いるはずの海水浴客など皆無、というわけでもなかった。

台風のさなか、激しい風で飛ばされそうになる傘をおさえながら海沿いを歩いていると、おそらくは遠くからやってきたのだろうカップルらしき若い男女が暴風雨のおさまるかもしれない僅かな可能性に賭けているのか、駐車場から砂浜に向かって水着のまま、ものすごい土砂降りの中を走っていくのが目に入る。




ビーチに向かう姿がやけくそにしか見えないが、本人はたぶん真剣


限られた滞在期間の中、せっかくの沖縄なのだから無理やりにでも泳ぎたい気持ちは分からなくもなかった。誰がどう見ても雨がやむ気配はゼロだったが。


そんな台風続きだったある日のこと。ようやく晴れ間がみえた休日の朝だった。

それまでずっと入るのを禁止されていた「青の洞窟」が解禁されたという連絡が入ると、いそいそと準備をして出かける。









洞窟の中は水の流れが停滞しているので、人が多くなるとどうしても海水が汚れてくるのだが、長く続いた台風によって停滞していた海流が大きく動いたらしく、むしろ透明度は普段以上に抜群だった。

水面下の空洞から差し込む太陽光が海底に反射して、洞窟内に青い光をもたらす奇跡のマリンブルー。

かわいい魚もたくさん見られたし、ずっと引きこもっていた直後だけに良い息抜きになった。

土砂降りの中を走っていた水着姿の若い子たちの泣きそうな顔が一瞬、脳裏に浮かんで消えた。