国の借金は返さなければならないのか

『借りたもん返すのんはあたりまえやろ!!』。ミナミの萬田銀次郎に言われるまでもなくそのとおりである。しかし,国債という国の借金も返さなければいけないのだろうか。この問題を考えるとき,国債残高の増加そのものを悪と見るのではなく,それがわが国の経済活動に及ぼす影響を検討するべきである。国債残高の増加がもたらす弊害として指摘される主なものには,『将来世代の負担』,『インフレーション(物価上昇)』,『金利上昇による民間経済活動の圧迫』がある。順に検討してみよう。

1. 将来世代の負担

国債発行によって賄われた財政支出はいずれ増税によって返済されなければならないから,税を課される将来の人々に負担を転嫁することになるという議論である。一般の投資家や民間の銀行が購入した国債が満期を迎えれば償還しなければならない。増税によって償還の財源を調達し,その結果人々の可処分所得・消費が減ればその分将来の人々は損失を被る。しかし,もしそのとき好景気であれば増税は景気の過熱とインフレーションを防ぐ有効な手段となり,それによって実質的に人々の消費が減少することにはならない。一方景気がよくなければ増税によって国債を償還するのではなく,日本銀行がその国債を買い取ってしまえばよい。それは償還する必要はない。政府が新たに国債を発行して過去に発行された国債の元金と利子を日本銀行に返済し,返済されたお金でその国債を日本銀行が民間から購入すれば何も変化はない。

国債発行による財政支出に限らずある政策が将来の世代に負担を課すのは,それによって将来の人々の可処分所得・消費が実質的に減ったり,民間企業による投資を減らして無駄な(より価値の低い)財政支出が行われるようになる場合であるが,不況期においては国債発行によって景気回復が実現すれば現在世代の消費が増えるだけで,将来の人々の消費を減らすことにはならない。逆に景気の回復に伴って企業の将来展望がよくなり,新規の投資や研究開発が進んで経済成長率が上がれば将来の人々の消費も増える。

2. インフレーション

一度民間に売却した国債を日本銀行が買い取ると(あるいは政府が発行する国債を直接日本銀行が購入すれば)貨幣が供給される。多額の貨幣が供給されるとインフレーション(物価上昇)が起きると言われる。しかし貨幣の供給だけではインフレーションは起きない。それによって需要が高まり商品が売れるようにならなければ物価は上がらない。すなわち,石油ショックのような外的な要因がない限り不況期においては景気が回復するまではインフレーションの心配はない。

3. 金利上昇による民間経済活動の圧迫(クラウディングアウト)

政府が国債発行によって財政資金を調達すると金利が高くなって民間企業の投資が阻害される可能性がある。しかしこれは企業の投資が活発なときの話であり,金利が史上最低の水準にまで下がっているのに企業の投資意欲が盛り上がらないような状況には当てはまらない。


以上によって不況期に財政支出を増やして景気の回復を図ることには何も問題がないと言える。

ただし,景気が回復した後は財政支出を縮小,あるいはやめなければならない。そうしないと金利が上がって民間の経済活動を阻害したり,インフレーションを招く可能性が出て来る。政府による投資が民間企業の投資よりも国民にとって価値があるというのでなければ有用な民間投資の代わりに無駄な公共投資をすることになり国民にとってマイナスである。

そう考えると景気を回復させるための財政支出の対象としては,一度始めると長期に渡って出費が必要となるものや多額の維持費がかかるものは好ましくないかもしれない。新幹線や高速道路,リゾート施設などの建設,一般の道路や学校の計画していない新規建設を景気回復のための公共投資として行うことは適当ではない。将来に渡る出費や維持費,工事を途中でやめた場合の取り壊し費用などこそが後世代の負担である。そのようなものを子孫に残してはいけない。一方,痛んだ道路の修理や老朽化した国公私立大学の建物や実験設備の改築・更新は,いずれ必要となるものであるから不況期の景気対策としては適当な投資先であろう。しかし,景気の変化に伴う財政支出の拡大・縮小が特定の産業の需要を大きく増減させるような場合には支出の削減が特定産業の雇用に影響を与えることになるからやはり好ましいとは言えない。そうするとお金の使い道を縛られない減税の方が機動的に行えるかもしれない。

このように不況期には景気回復のための財政支出を行い,景気が回復した後には減らさなければならないが,その結果不況期に増発した国債を景気回復後にはすべて返済し長期的に財政の均衡を保たなければならないのだろうか。そんなことはない。経済が深刻な不況に陥らず,また過度な景気過熱によるインフレーションが起きないようにすること,すなわち経済の均衡を保つことが肝心であり財政の均衡を保つ必要などまったくないのである。 カウンター


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