子供の頃を育った田舎では、冬になると
農家の母屋の裏の防風林として囲われた椎の木が軋むほどの風が吹いた。
ふっと思い出す一片の記憶。継続した記憶ではなく場面場面が脳裏をよぎる。
太平洋岸に面した半島で生まれたせいもあって、秋から冬にかけての東風がよく吹いた。
木枯らしの音を聞いて、また時には長閑な自然を感じながら育ってきた、否、育てられたというべきでしょうか。
夜には、なんの光もない闇の世界の田舎の山や田畑。
こんもりとした山の裾野に「焼き場」という樹木の生い茂った窪地があって、
地域の風習で村人が死ぬと葬儀をして、そこで焼いた。時々、風向きによっては人を焼く臭いもした。
戦後生まれで、戦後育ち、これと言って何の特徴もない田舎育ちの自分を振り返るとき、
穏やかな農村風景のありきたりの周辺と自分の姿が重なる。
あまりにも世の中を知らずに、生きてきたような気がする。